政府は2011年度にも、年金手帳や健康保険証、介護保険証の役割を果たす「社会保障カード(仮称)」を導入する方針を打ち出した。
確かに年金の場合、負担・給付の関係を随時把握でき、制度の理解も深まる。
だが病歴等の漏えいへの懸念もあり、医療・介護も含め一元管理することには賛否両論がある。
情報管理の安全性を最大限に高め、国民の利便性を最重視したシステム作りに向け、慎重な検討が必要だ。
年金記録漏れ問題の対応策の一つに掲げられた社会保障カード。
現時点の構想では、カードに偽造防止などに役立つIC(集積回路)チップを組み込むが、具体的な情報はカード上には書き込まれない。
カードはデータに接続し、本人に間違いないことを確認するための鍵の役割を果たすだけ。
カードを使って、自宅のパソコンや社会保険事務所の専用端末などから記録を確認できる。
年金以外の情報も管理しやすくするため、年金や医療など制度ごとに割り振られている現在の番号を統一した「社会保障番号」の導入も検討する。
カードを使えば、いくら保険料を負担し、将来の給付がどれくらいになるかなどを、自宅にいながら、いつでも確認することができる。
転職したり、名字が変わったりして、手続きミスが発生しても、早期に気づく。
今後年金制度の見直しで、自分の負担と給付に変更があっても、その影響を把握しやすく、資産形成など将来の生活設計を考える際に役立てることも可能だ。
世代間格差の拡大により、将来の受益が見えにくい若い世代も、給付が増えていくことが実感できれば、不平等感の緩和にもつながるだろう。
そもそも医療分野への導入については、厚生労働省が検討を進めてきた。
今年3月にまとめた「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」では、新たな健康保険証として「健康ITカード」を希望者から導入する構想を提唱した。
カードの導入により、08年度からメタボリック(内臓肥満)対策として実施される検診結果の履歴や、診療情報が記入されたレセプト(診療報酬明細書)の内容などをパソコンで閲覧、出力できるようになる。
これにより複数の医療機関による検査や薬の投与の重複を避けることができ、医療費削減の効果もある。
その前段として厚労省は健康保険証をすべて個人カード化し、保険証番号等のデータを盛り込んだ「QRコード」と呼ばれるバーコードの印刷を省令で義務づける方針だった。
自動的にレセプトに番号等を記載することができ、転記ミスの根絶などが狙いだった。
だが7月5日、政府・与党がQRコードよりも高度なICチップ搭載の社会保障カードの発行方針を決め、その4日後には省令改正の中止を決めた。
参院選直前に年金記録漏れ問題の対策として急浮上したカード構想に、混乱していることがうかがえる。
ただ、健康ITカードの機能自体は、社会保障カードに引き継がれた。
医療や介護の分野にも社会保障カードを活用し、健康情報を電子的に活用する仕組みが出来ると、両方のサービスを受けている人にもメリットが生まれる。
骨折や血圧などの医療情報を、主治医と介護支援者が必要に応じて共有できるようにすると、介護プランに反映させ、質の高いサービスの提供につなげていくことも可能になるだろう。
医療と介護の保険料を年金から天引きする際の事務作業の効率化も進む。
両方の費用の合算が容易になり、高額になった場合の還付手続きも簡単になる。
今後、高齢化で年金、医療、介護など社会保障の給付と負担は膨らみ、厚労省の推計では、15年度には給付は116兆円と国民所得比で25%を上回る規模になる。
制度別に考える場合と比べ、個人ごとの給付と負担の全体が明らかになれば、制度のあり方を問い直す機会にもなる。
限られた財源の中、医療・介護を重視するか、年金給付を重視するかなど、国民がどのようなセーフティーネット(安全網)を望むのかを問うこともできる。
カード化により、政府もこれまで以上に横断的で柔軟な改革を意識せざるを得ない。
個人データの集積と分析により、制度改革による年齢・地域別の影響も的確に把握できるようになり、政策立案にも役立つ。
だが、医療、介護の分野まで、利用対象を広げることなどには賛否両論がある。
個人の病歴や検診結果、家族の認知症などの情報が漏えいすることへの懸念が大きいためだ。
確かに、警察官のパソコンから捜査情報が漏れたり、民間企業の顧客情報が流出したりするケースが後を絶たない。
個人情報保護に詳しい尾崎孝良弁護士は「仮にデータを暗号化したとしても、遺伝情報も含めた個人の病歴が芋づる式にわかるような管理の仕組みを作ることは、やってはいけないこと。
国が強制的に、あるいは、事前の了解なしに国民の病歴情報を収集した場合は基本的人権の侵害になる。
自分の情報がインターネット上に漏れたりした場合には、現状ではほとんどの人が泣き寝入り状態なのが実態だ」と警鐘を鳴らす。
一方、電子政府に詳しいサイバー大学(福岡市)の前川徹教授は「もうすでに先進国の多くが、社会保障も含めた情報を統一した番号で管理している。
情報漏えいの不安を解消するために、第三者機関を設けて恒常的に監視するなど、各国とも工夫をしている。制度ごとのバラバラの番号を使ったシステムを作れば、整合性も取れず行政の効率化につながらない」と指摘する。
人間が作る制度には限界がある。
それだけにプライバシーの保護や不正アクセスの阻止に向け、モラルの向上、罰則強化などの法整備、セキュリティー技術の向上など、様々な対策をとり続けるしか解決策はない。
行政の効率性のためだけにカードを導入し、国が一元管理することには、なかなか国民の理解は得られまい。
リスクを冒してまでも導入する価値があるかどうかは、国民の利便性を最重視したシステムであることを、具体的にアピールし、どこまでその理解を広げられるかにかかっている。
社会保障カード導入の目標年次を2011年度としたのは実務的な理由からだ。
公的年金加入者に割り振られている基礎年金番号を管理している社会保険庁のオンラインシステムの刷新が、10年度で終了する。
医療費の支払いに利用される患者のレセプトの送受信が、11年4月以降、手書きではなく、オンラインで行うよう原則義務化される予定で、医療情報の電子化が進むことも背景にある。
また基礎年金番号は、社保庁に代わる日本年金機構の発足に合わせ、10年から国民年金事業運営改善法に基づく法定番号になる。
現在は省令が根拠で、民間利用に規定がないが、法定後は制限規定が設けられる。
健康保険証のICカード化は、厚労省の省令改正により2001年から可能となった。
健康保険組合連合会によると、現在導入しているのは三つの組合健保。
その一つ東芝健保は、02年、被保険者と配偶者にICチップ搭載のカード発行を始めた。
健康増進に役立ててもらうため、健診データを5年分書き込めるほか、企業内の診療所などを利用した場合は、窓口で現金精算しないですむクレジット機能も付いている。
また被保険者が、約300の関連会社間を異動した場合、IC上のデータを書き換えることで、保険証の再発行の必要性はなくなった。
ICカードの保険証は、他の企業などでも実証実験などを行っているが、医療現場でIC機能を生かせる環境整備が進んでいないことなどから、本格導入にはつながらなかった。
現状ではまだ、紙製の三つ折りのタイプの保険証を発行しているところが多く、IC機能なしのプラスチック製などのカードに切り替えたのは、政府管掌健康保険と、国民健康保険の549市町村(05年6月現在)。組合健保でも3分の1にあたる509組合にとどまっている。
◆3つの提案
◇国民の利便性を最重視したシステムに
◇横断的かつ柔軟な制度改革に生かす
◇健康情報の保護には特に万全な対策を
2007年8月7日 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/security/20070807-OYT8T00170.htm
方法はいろいろ考えられるでしょうが、安全に間違いなく管理できる社会保障システムを早急に構築していただきたい。
政府・与党も手掛けなければならないことが山ほどあるでしょうが、年金問題、社会保障の安定は国民の大多数が不安に思っている重要事項です。
野党も民主党が力をつけてきましたが、与党の足を引っ張るだけでは今までの社会党のような仕方のない野党で終わってしまいますよ。
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